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BAJ★ミャンマーブログ

ミャンマーで活動するNGO駐在員の日記 (ヤンゴン、ラカイン、パアンから)

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BAJミャンマー駐在員

Author:BAJミャンマー駐在員

~アジアに架ける橋~
特定非営利活動法人ブリッジエーシアジャパン(BAJ)は、技術訓練や収入向上支援、生活環境の基盤整備を通しアジアの困難な状況に置かれた人々の自立を支援しています。

こちらのブログではBAJのミャンマー駐在員が活動を紹介しながら日々の出来事、喜び、驚きを日記にします。

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2015.05
22
Category : 中央乾燥地域

みなさま、ご無沙汰しております。正治です。
私事ですが5月上旬に東京事務所に戻ってまいりました。
はじめに、皆さまのご支援のおかげで今年度も中央乾燥地の生活用水供給事業を実施できましたこと、改めまして心より御礼申し上げます。これからしばらくマグウェ事務所は日本人の駐在員はいなくなり現地スタッフが中心となりますが、引き続きヤンゴンと東京から遠隔で関わっていき、中央乾燥地での生活用水供給事業は続いていきます。

今日のブログ記事は、マグウェを離れる前に起こったある出来事、というよりも、あるミャンマー人スタッフについての思い出です。BAJの現場ではこういうことがあるんだなぁと身近に感じてもらえれば幸いです。

掘削チーム



マグウェを離れる前の最後の休日。誰もいない事務所で片付けをしていると、とつぜん誰かがやってきました。元スタッフのTです。

TはBAJ内で期待された若きドリラーでした。深井戸掘削に必要な経験、体力、知識、それぞれ十分に併せ持った人でした。何よりの強みは気配りとやさしさ。周りからとても好かれる、気のいいあんちゃんでした。ですが、彼には一点だけ他のスタッフが受け入れることが難しい弱点がありました。お酒です。
何度か警告を出して、同じ掘削チームメンバーも彼を支えようと努力してきました。しかし、ある日、とうとう掘削リーダーが神妙な顔で「彼を外してくれないか」と言ってきたため、ドリルチームを離れてもらうことになりました。
まったくTの弱点はお酒だけでした。マグウェ事務所の活動への理解力も高く、何より他人への共感能力の高い人で、ちょっとした手伝いや雑用にも協力的でしたので、私は彼に酒を控えることを条件に、オフィス付のウォッチマン(警備員)になってもらいました。
しばらくは周りのスタッフから「彼は心を入れ替えた」「変わった」などといわれ「掘削チームに呼び戻したい」という意見も掘削リーダーから出るほどでした。実際に短期間サポートしてもらったこともありました。しかし、半年が過ぎた頃、またお酒を飲むようになってしまいました。

いろいろありました。
結論からいいますと、彼にはBAJを辞めてもらうことになりました。

掘削の様子


「日本に帰るんですか?」
「帰ります、明後日です。Tはいまどこに住んでいるんですか?」
「チャウパドンにある村の実家です」
「じゃあ家族と一緒に住んでいるんですね、それはいいね」
お互いカタコトの英語で会話をします。BAJのミャンマー事務所内では基本的に英語で仕事をします。日本人もミャンマー人も慣れない英語をしゃべります。すると、妙な連帯感のような、何を言いたいのか察し合うような雰囲気が生まれます。これはテレパシーではないか、もう言葉なんてデタラメでいいんじゃないか、と思うような瞬間もあります(ただの錯覚かもしれませんが)。

「今日はなんでマグウェに来たんですか?」
「お姉さんに会いに来たんです」
「お姉さんは元気ですか?」
「元気です」
「ところで、いまは何の仕事をしていますか?」
「うーん、…」
困ったように笑っていました。
でも私は心配しませんでした。なぜなら彼はとてもいい人間だからです。

こんなことがありました。彼がウォッチマンのときです。ある日、事務所の門と警備員の詰所のあいだにあるスペースに大量のプラスチック製のイスが置かれていました。あきらかにオフィスの備品ではありません。
これは何ですかとTに聞くと「事務所の前の露店のイスです」との答えが返ってきました。意味がよく分かりません。なぜ我々と何の関係もない店のイスがこんなにたくさん置いてあるのですかと聞くと「彼らの家はここからとても遠いのです、だから置いてあげたのです」とのこと。
Tの答えはあまりにも無邪気で善良でした。
あっけにとられた後に、一気にまくしたてました。
オフィスとあの店は何の関係もない、あなたの個人的な関係にすぎない、近隣との付き合いは重要だし、あなたの行動は理解できる、しかしなぜ独断でやったか、イスを置きたいなら、それをあなたの直属の上司に相談するべき、それが組織、これはあなたのためでもある、あなたが勝手にやったら周りのスタッフはどう思うか、あなたは好き勝手やっている悪いスタッフだと誤解するだろう、そうなるとあなたの組織内での評価は下がってしまう、とにかくイスをここに置くことはできない、置きたいならリクエストレターを書け――
言っているうちに自分自身にうんざりさせられました。
なぜなら、Tの行動は基本的に善意の行動だからです。
組織的には彼の行動はアウトです。身勝手ですし誤解を生む行為です。しかし、人としてはどうでしょうか。人の役に立ちたいという思いは、組織的な手続きよりも優先されてしかるべきじゃないか、俺のほうがよっぽど心のせまいケチな人間ではないか、イスくらいいいじゃないか、別に……。
人間的にはTの方が正しいでしょう。おそらくTのような人間が多くいた方が世界は豊かで平和なのです。

中央乾燥地風景


組織の論理あるいは仕事の論理は強力です。世界的にはTのようなナチュラルに組織に反するふるまいは「ちょっとヘンなもの」「常識はずれのもの」として淘汰されていくように思います(わかりやすく言うとクビになってニートになってしまうでしょう)。その流れはとても大きなものです。NGOは普通の企業ではないのですから、そうした流れから零れたもの、あふれたもの、余剰にある何かをすくい取ることが得意なはずですし、ときには勇気を持ってそうしたものを守らなければいけないとも思います。誰もが整然と仕事の論理で動くのは間違いだと、どこかで誰もが思っています。だからこそ、世の中にはたくさんのNGOがあるのではないでしょうか。しかし、現実にはなかなか難しい。ひょっとすると俺のしていることは単なる弱い者いじめで、世界をつまらなくすることに加担している大バカ野郎なのではないかと思えてくることがあります。いつも迷いや困惑を感じながら、これでいいのかと思いながら、前に進んでいきます。
イスは翌日にはなくなっていました。夜、詰所のTを伺うと、何事もなかったような気さくな笑顔で「おやすみなさい」とあいさつしてきました。なぜだか、ほっとしたことを覚えています。

中央乾燥地風景2


「若だんな、ちょっといいですか」といって、Tが突然一歩うしろに下がりました。
「あなたは私にとって親のような人です」
そう言って、いきなり膝をつき、手を合わせ、額を床につけました。
日本人から見ると土下座のように見えます。びっくりしました。

ミャンマーの人たち、とくにビルマ族の人たちは敬虔な仏教徒が多いですが、タディンジュという雨安居明けの満月の日には親や先生に贈り物をして拝んだりします。彼のやったことはその伝統に則った所作でした。
何度も額を床につけます。勢いがありすぎて「ゴツッ」という少々心配な音が事務所に響きました。
はじめは恥ずかしさと気まずさを感じましたが、Tが拝み終わるのを待っているうちに、そうした余計な感情が洗い流されていくように感じました。
Tの丁寧な所作を通して、ミャンマー文化の優しさや美学が伝わってくるようでした。

「お姉さんからは軍隊に入ればといわれています、私のお姉さんは銃の工場で働いているのです」
「軍ですか、それは国にとって、とても重要な仕事ですね、でも大変な仕事です」
「そうです、だから考え中です」
「体に気を付けてください」
「若だんなも体に気を付けて」

日本から持ってきたおみやげのお菓子を渡して別れました。
またいつかどこかで会えるだろうと思います。

マグウェ事務所


正治
(元マグウェ駐在員)

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